がらくた

双極性障害と、本と映画と、日常と、小説ポエム書いて非日常へと。

ラーメンのノリで鰻を

 

ブログをまた始めてはいいものの、とてつもなく恐ろしく暗い内容になってしまった。
まぁ、そういう部分も自分であるから、これからも自分のことは包み隠さずに話そうと思う。
思ったよりも閲覧数が多く、一つのブログを書くのに二千字かそれ以上書いてしまっていて、最後まで読んでくれた人はいるのだろうかと思う。
考えてみれば、大学生のときにやっていたブログもよく周りから長いと言われたことがある。

さてさて、あまりにも暗い内容ばかりなので、少しは明るい話を……

九月二十日は父親の誕生日でした。
晩年の祖父にどんどん似てきてしまって、何かあると鰻が食べたいと言うようになった。
私の住んでいる三島はどういうわけか鰻屋さんがたくさんあるのだが、おかげで三島の鰻屋さんに詳しくなってしまった。
しかし、とても有名なのに、行っていないお店がひとつある。
それが広小路駅の近くにある桜家さん。
その近くを通ると新型iPhoneの発売日なのではないかと思うほどすごい行列で、そして銀座の一等地のような値段である。
お金があるのかないのかよく分からない父親は桜家には行こうとは一度も言ったことがない。
ところが今年でめでたく七十歳になり、特別だから行きたいと言った。
日常の生活をするのがやっとのお金しか持たない私は勿論奢りである。
もったいないから桜家はやめようと言ったのに、七十歳の記念だからいいのだと父親は言った。

木曜日の肌寒い雨が降る夜、桜家にはすぐに入れた。
父親とこの一週間私が引きこもっていた話をすると、話を遮るように店員さんはやたらと話しかけてくる。
仕事の上で大切なことではあるのだろうが、もう少しタイミングがあるだろうと思い、思わず苦笑いを私はしてしまう。
店内はいかにも高級鰻屋と言った感じの内装もとても重厚で、何を書いてあるのか書の知識がないのだがとても威厳はあるような気がする。
メニューを開くと一番下で四千三百円……他店よりは八百円も高い。
父親は上機嫌でいつもより日本酒を多く呑んでいた。
鰻が運ばれる。美味しい!
美味しいが、こんな値段を取るほどの味だろうかと思うのが正直な感想。

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ところで父親は好奇心がとても旺盛だ。
よくお店の調度品や料理などをお店の人に聞いて、あまりにも細かい質問に、仕事を始めたばかりの店員さんなんかはよく困らせたりする。
そしてこの日も店員さんに質問した。
お店に飾ってある書は誰が書いて、どうしてここのお店に飾ってあるのかと聞いていた。
名前は失念してしまったが、どうも有名なお坊さんが書いたものらしく、桜家に来たときに送ったものらしかった。
お酒に酔っていた父は大きな声で、
「坊主のくせに鰻を食べるだなんて!」
と少し怒りに似た口調で話していた。
最初は大きな声を出して、「坊主」なんて言葉を使う父親を恥ずかしく感じてしまったが、ふと江戸時代は東京湾でも鰻がとてもたくさん採れていたという話を思い出した。
そして、こう父親に切り出した。
「昔って鰻がもっとたくさん採れていたから、鰻は今よりもきっと安くて、もっと庶民
食べ物だったんじゃない?……今で言えばラーメンみたいな」
少し興奮していた父親は黙って私の話を聞いていた。
「よくラーメン屋さんに行くとサイン色紙があるでしょう?今で言うラーメン感覚で鰻を食べて、有名人だからサインをお店の人に求められて、その頃は色紙なんてなかったから、サイン代わりに書を書いたんじゃない?」
すると父親は満足気な笑みを浮かべて、
「なるほど。面白い説だ」
と納得した。
思いつきで話しただけなのだが、我ながらよくできたものと自画自賛し、この説はかなり気に入っている。
補足すると、今で言うラーメン感覚だった鰻が現代では高級食に勝手になり、サインを求められたお坊さんが後世で勝手に語り継がれる人になっただけの話だと思う。

もしかしたら、ラーメンもそのうちに高級食になり、色紙にサインをした三流と言われた有名人が後世に語り継がれる人になるかもしれない。
それもまた面白い話である。