君が夢で会いにきてくれた話
私は19歳のときに、たった10ヶ月だけしか付き合っていなかった人がいる。
もう何年も会っていないし、連絡先は知っていてもいつも応答がないので、たぶんもう二度と会えないのだろうなと覚悟をしている。
付き合ったのは、14年も前なのに、その彼が未だに夢に出てくる。
今から、今日見た夢の話を書きます。
ちょっと古い二階建ての一軒家。
その一軒家には私は記憶にない。
夢の私は33歳の今の姿だったと思う。
「あれ、いなぁーい」
と言って、まるで私は3歳の子供のように、襖を開けているところから、始まっていた。
そこは日当たりの良い部屋で、隅に茶色の木製の机が置いてあった。
「ここだよ」
と楽しそうな彼の声だけが聞こえる。
声の大きさからして、彼はすぐ近くにいるはずだ。
「どこぉー?」
と押し入れを開けたり、そんなところにいるはずがないのに、机の引き出しを開けて、彼を探す。
どうやら、かくれんぼでもしているようだ。
台所や、和室の扉を開ける。
どの部屋もがらんとしていて、人気はない。
でも不思議だったのはどの部屋も生活感がすごくあって、長いこと誰かが住んでいた部屋を借りて、ふたりでかくれんぼしているみたいだった。
私は階段を登り、ある部屋の扉を開ける。
すると、私の視界に突然彼の顔がいっぱいになる。
「見つかっちゃった」
と嬉しそうに微笑む彼。
あの優しくてまぶしい笑顔は、夢の中で一番印象的だった。
そうして彼は、ごつごつしているけれど、でも繊細な手で、私の頭を、またあの笑顔でなでてくれた。
そこから先は記憶がない。
夢に出てくる彼はいつも決まって、優しく微笑んで私を見つめてくれる。
自分の都合の良いように構成された夢だとは分かりつつ、あの笑顔を見たくて会いたくなってしまう。
でも、会えない。
たぶん、それでいい。
この果てしなく遠い距離がいいのかもしれない。
今の私が見る彼と、
今の彼が見る私は、
てんで違っているのだから。
私は彼が今、幸せであることを心から祈っている。
今まで何人かと付き合ってきたが、こんなに祈る気持ちになったのは、彼だけだ。
だから、彼が今、幸せならば、私は現れてはいけない気がしている。
むしろ、彼は私のことを思い出してほしくなんかないし、思い出してはいけないのだと思っている。
そう思えるほど、彼に愛され、無償の愛を、いつもあの優しい笑顔で与え続けてくれたからこそ、こんなふうに思えてしまうのだろう。
本当に彼には感謝しかないし、そんな彼と付き合えた私は本当に幸せ者で、運が良かったのだと思う。
もう少し泣いたら、笑顔で仕事に行こう。