吉村萬壱「ハリガネムシ」を読んだ感想〜エロとグロテスクがほしい人はおすすめ
井上靖ブームで、戦争体験した小説家にやたらと惹かれると書いたが、今回はどういうわけか、今もご存命というか、2003年に発表された作品なので、私としては珍しく最近の作家の小説を読んだ。
実は最初に、
を読んでいたのだが、あまりにもピュアな話ばかりで、アダルトチャイルドを克服するために、幼いときの私は地獄だったとはっきりと認識させられてしまったので、読んでいて辛くなったので、どこかトゲトゲした作品を読みたいと思い、新しい部屋に床から天井まで大きい本棚があって、そこには本が並べられているというよりか、本のゴミ捨て場ではないかと思うくらいに本が乱雑に置いてあったので、整理ついでに何か面白い本がないかと思って整理した。
たくさんある本からこの本を選んだ理由は帯にやられてしまった。
「無性に 酷いことがしてみたくなる……怖い。」
これはどうも、井上靖から180度違ったおどろおどろしいものだとワクワクして、手に取ってみた。
結果、とても面白かった。
どのくらい面白かったかというと、自分の睡眠がうまくいかないことをいいことに、朝になっても構わず読んでいたくらいで、2日で読んでしまった。
そのくらい話の続きが気になった。
まずは文章表現が豊か。
風景や登場人物の表情が容易に頭に思い浮かぶ。
実はこの小説はとてもドロドロしているのだが、美しい物語でこの表現力だったら、もっと文章表現の美しさが際立つと思った。
でも、ドロドロとしたものを書きたくなってしまうのが、この作家なのだろう。
本当にフィクションなのだろうか?と思ってしまうほどリアリティがあって、すごく生のものを感じてどんどん引き込まれてしまう。
一つ発見したのが、三島由紀夫の奔馬を読んで全く自分の人生で興味がまるでなかったのに主人公の気持ちが理解できるようになったりして、こういう小説を書きたいなと思っていたが、それにもう一つ付け加えたいのが本当にフィクションなのだろうか?と思わせるような小説を書きたいなと思った。これはものすごく大きな収穫だ。
そして、物語の内容はぶっちぎりのエロとグロテスクさである。
芥川賞を受賞した作品のようだが、よくこの内容で取れたものだと感心し、審査員の方々が素敵だったのだなと思った。
自分の中に秘めている残虐性をよくここまで裸に曝け出したものだなと思った。
やはり小説はどこまでも自由なものだと思った。
あとは書き手である作家がどこまで自分を裸にできるものかだろう。
しかし、やはり私もこういう残虐性を孕んでいるのだろうか?
「うわぁ」と思いながらもどこか快感のようなものを覚えてしまう。
どこかで「もっと酷い目に遭わせろ」と思ってしまう自分がいる。
個人的な話だが、鬱でずっと感情が腐っていたからこそ、余計に沁みたのかもしれない。
「ハリガネムシ」と「岬行」の2話が収まれているが、登場人物もみんなダメ人間どころか、ヒロインも私が読む限りはちっとも美しくない。
そして精神を大いに病んでいる。
私の嫌いな小説家はすぐに精神を病んだ登場人物がよく出ているがそれがみんな美しいからなんだか腹が立っていたが、その理由が分かった気がする。
自分が精神科の病気になっているせいかもしれないが、醜女で精神が病んでいるのが現実なのだと思う。
それが余計に私にリアリティを持たせてくれる。
話のオチに大きな展開はないが、これはエロとグロテスクを繰り返す過程を愉しんで読むものだと思った。
逆にピュアなものを読みたいときはこの小説はオススメしない。
また、毒なものが欲しくなったときに、この作家の他の作品を読んでみようと思った。