君が出てきた夢と君がいない現実
先週の木曜日は一睡もしていなかった。
やっと2ヶ月に及ぶ鬱から脱出したかと思ったら、それからずっと、過眠と短眠を繰り返している。
昨日はやっと調子が良くなり、むしろ自分では躁になったのではないかと思ったが、睡眠がなかなか上手くいかない自分と、この睡眠が自分で努力したり、なんとかコントロールしようとしているのに、何一つ報われない自分のせいで、33歳にもなって、ロクに働くことができない自分にいひどく悲観してしまい、自分は生きている価値なんてないし、自分が生きているせいでみんなに迷惑をかけているという希死念慮に襲われてしまい、死んでしまたかった。
朝の7時に、耐えられない胃痛が来たので、胃薬を放り込んで、気が付いたら眠っていた。
本当は病院に行かなくていけない。
リボトリールが切れている。
父親に病院に行くのだろうと何度も起こしてはくれたが、目覚めた後の私はまだ鬱からも覚めておらず、もうすべてがどうでも良くなっていた。
時計を見たらもうとっくにお昼は過ぎていた。
ここまで寝てしまうとまた眠れなくなるとは思ったが、どんなに努力して、普通に寝起きしたいと願っているのに、叶えてくれない。
他の人だったら当たり前にできることがなんで私にできないのだろう。
むしろ、双極性障害になってから、できないことばかりが増えて本当に絶望したし、この世から消えてしまいたいと何度も思った。
それから、夜の10時半まで眠っていた。
それまでに何度か起きたが、現実は嫌になって、夢の世界へまた逃げ込んだ。
そのくらい、ひどく甘い夢を見ていた。
また、君が出てきたからだ。
去年の10月にも君は夢で出てきて、現実の私を鬱にさせた。
鬱になったのは、もう二度と君に会えないのを分かっていたのに、また会いたくて仕方ない自分がいて、現実と自分の欲望のちぐはぐさに、受け入れられなくて鬱になったのだと思う。
君のことはまだ大好きだけれど、もう夢に出てこないでほしいと願った。
たった、3ヶ月でまた君は会いに来た。
いや、私の脳みそが会いに来ただけなのだが。
5日間の修学旅行をしていた。
私は修学旅行なんて馬鹿馬鹿しくて、4日間はサボって、適当に過ごしていた。
ところが、気まぐれに5日目はちゃんと修学旅行をしようと思った。
今思うと、団体行動をちゃんとしようという意味だったと思う。
歴史のある豪邸のような和風建築の旅館を訪れた。
そして、庭を望む長い木板の廊下に君は立っていた。
私はどこかでこれは夢だなと思った。
なのに、君と目が合った瞬間、まるで毎日会っているかのように話をしていた。
たぶん、「おつかれ」なんて言いながら、旅館を回っていたのだと思う。
これは夢だなと思っていたのに、君の隣りにいれたことがすごく嬉しかった。
そして、なんとか平静を装っていたが、君の声を聞くだけで、顔が少しでも近付いただけで、心臓のドキドキが君に聞こえてしまうのではないかとヒヤヒヤした。
蘭がたくさん置いてある部屋に入った。
旅館の中年の女将さんが「この蘭、綺麗でしょう?」と私に聞いてくる。
私は顔を蘭に近付けて「綺麗ですね」と言うと、なぜかそれを聞いていて、嬉しそうに笑った君の顔が忘れられない。
それから、玄関のような場所で、座る場所があるので、2人で腰を下ろす。
隣り合って座っていた。
修学旅行のはずなのに、他に誰とも会わなかった。
なぜか、君はタバコを吸い出す。
あれ、タバコなんて吸っていなかったのに、タバコを吸い始めたのだなと思う。
君のタバコの吸う手つきやしぐさは、もうだいぶ前からタバコを吸っている人のように感じた。
その姿の君は、「やけに疲れているのだな」という印象を私に与えた。
2人は黙っていた。
君は煙をのんびり吐いていた。
柱時計の秒針の音しか聞こえない。
突然、私は話しかける。
「結婚しないの?」
修学旅行のはずだったのに、急に現代のような会話をし出す。
「する気はまだしないねぇ」
私の方は見ずに、まっすぐ見つめたままだった。
まだ、タバコを吸っている。
「やっぱり、私には会いたくない?」
「そんなことないよ」
「じゃあ、連絡したら会ってくれる?」
「もちろん」
嘘だ!
連絡しても何も応答しってくれないじゃないか!
そう思った瞬間、目が覚めた。
夜になっていたらしく、目が覚めても真っ暗だった。
たぶん、君に言って欲しかった言葉を、私の夢が再現させたのだろう。
言って欲しかった言葉を夢で言わせたくせに、すごくせつない気持ちになってしまった。
だから、現実の世界に今日はいたくなかった。
都合のいい、夢の世界にずっといたかった。
どうして、君は私の連絡に応えてくれないのだろう。
理由が知りたい。
でも、それが残酷な理由だったら、どうするつもりなのだろう?
諦めるなんてできない。
いくら口では諦めるなんて言っても、また夢に出てきて、私の都合のいい君が出てくる。
そして、いつまで私はもう14年も前の恋愛を引きずっているのだ。
14年前に彼の純粋な気持ちをちゃんと受け止めなかった私への、天罰なのだろうか?
甘い夢は辛い。